
これまでブログの中で、苔テラリウムの魅力や、特徴別に分類した5つの作品カテゴリーについて話してきた。
ありがたいことに、最近は作品を購入いただく機会も増えているが、本日は、自分で苔テラリウムを作成する際ならではの、苔テラリウムの魅力を紹介する。
もちろん完成された美しいミクロの生態系をデスクに置き、日々の暮らしの中でふと眺めるだけでも、十分に素晴らしい癒やしの効果がある。
環境心理学の研究(ロジャー・ウルリリッチ教授らの有名な実験など)でも、窓の外の緑や室内の植物をほんの数分眺めるだけで、ストレスホルモンが減少し、自律神経がリラックスモード(副交感神経優位)に切り替わることが実証されている。
忙しい日常の「応急処置(マイナスをゼロに戻す)」として、お気に入りの作品を愛でることは間違いなく正解だ。
しかし、もしあなたが「脳の疲れが取れない」「なんとなく心がモヤモヤする」と感じているのならば、私は声を大にして伝えたい。
「作品を買うだけでなく、ぜひ自分の手で、ゼロから創り上げてみてほしい」と。
なぜなら、苔をただ「眺める(受動的)」のと、ピンセットを握って「自ら作る(能動的)」のとでは、脳と心に起きる変化の次元がまったく異なるからだ。
今日は、最新の脳科学や心理学のエビデンスを交えながら、「自分で作る苔テラリウム」がもたらす3つの驚くべき効果について紐解いてみたい。
1.脳のアイドリングを強制終了する「没入(フロー体験)」
現代人は、スマホや仕事のマルチタスクによって、脳の「前頭葉」を激しく疲弊させている。実は、人間は何もしていない時でも、脳の「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という回路が働き、過去の後悔や未来の不安をぐるぐると考え続けてエネルギーを無駄遣いしている(脳のアイドリング状態)。
苔テラリウムの制作は、脳のアイドリングをピタッと止めてくれる。
細いピンセットの先だけに集中し、1株1株の苔の向きを考え、丁寧に土へ植え付けていく作業は、五感をフルに稼働させる。
このとき脳は「今、ここ」の作業に100%集中する「フロー状態(没入)」に入り、DMNの活動が停止する。
自分で作る時間は、まさに脳のワーキングメモリをすっきりとリセットする「大人の贅沢なマインドフルネス」なのだ。
2.土と苔に触れることで分泌される「幸福ホルモン」
イギリスのエクセター大学などの研究(園芸療法)では、植物に自ら触れ、手を動かす能動的な関与のほうが、心理的幸福度や自己効力感が有意に高まることが分かっている。
さらに面白いのは「土」そのものが持つ科学的効果だ。
近年の脳科学・医学研究(英ブリストル大学のクリストファー・ローリー博士らの研究など)によると、土壌に含まれる無害な微生物(マイコバクテリウム・バッカエ)に接触したり吸入したりすることで、脳内のセロトニン(幸せホルモン)を放出するニューロンが活性化し、
不安を和らげる効果があることが突き止められている。
自分の手で土をブレンドし、苔の質感に触れるプロセスそのものが、天然の抗うつサプリメントのように心に作用するのである。
3.ガラスの枠内を支配する「自己統治感」と心理的安全性
心理療法の中に、砂箱にミニチュアを配置していく「箱庭療法(サンドプレイ・セラピー)」というものがある。
現代社会は、仕事や人間関係など、自分の思い通りにならないことばかりで、私たちは無意識にストレス(無力感)を溜め込みがちだ。しかし、ガラス容器という「明確な境界線(枠)」で区切られた空間は、人間に強い心理的安全性(プロテクション)を感じさせる。
その小さな枠内であれば、現実の煩わしさから離れ、「どこに石を置き、どの苔を主役にするか」を100%自分の意思でコントロールできる。
自分の手で小さな理想郷を再構築するプロセスは、人間が本来持っている自律性(自己コントロール感)を強烈に満たし、深い安心感をもたらしてくれる。
自分で創り上げる「体験」と、プロの技術を「愛でる」贅沢
ここまで「自分で作る」ことによる脳と心への驚くべき効果を科学的にお話ししてきた。
もしあなたが、日々の忙しさから離れて脳をデトックスしたい、自分の内面と静かに向き合う時間(セルフコーチングのような時間)を持ちたいと感じているなら、間違いなく「自らピンセットを握るワークショップ」がおすすめだ。自分の手で命を配置していくプロセスそのものが、極上のメンタルケアになる。
しかし一方で、荘厳さを感じる森のような苔テラリウムを長期にわたって、楽しむためには、苔の特性を見極める知識や、隙間のない植栽技術、全体のバランスを崩さない配置の妙など、一朝一夕には真似できない「知識と技術(職人技)」が必要である。
そんな人は、「プロが仕立てた完成された作品」を購入して、また別の贅沢な時間を楽しんで欲しい。人の管理をはなれた自然を感じさせる空間が提供されるだろう。
「自分だけの世界を創り出す、心のセルフケア体験」を求めてワークショップに参加してみるか。 あるいは、「プロの手によって完成された、破綻のない美しい生態系」を自宅やオフィスに迎え入れて、日常の特等席で長く愛でるか。
アプローチは違えど、どちらも現代人に不足している「土と緑の暮らし」を取り戻すための、素晴らしい選択肢である。
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